石川さん旅にでる

アジア・アフリカ横断をめざした理系学生の旅日記。

帰国

イラク北東部にエルビルという街がある。

トルコとイランに弓なりに沿うように広がるクルディスタン自治区クルド人は、自らの国を持たない世界最大の民族として知られるが、この自治区は、オスマン帝国崩壊以後、クルド人が初めて手にした自民族の土地だ。その契機となったのが2003年のイラク戦争であったことは、皮肉というほかない。そのイラク戦争も含め、ここ数十年間戦闘と混乱がつづくイラクにあって、この自治区は例外的に治安が保たれている。

エルビルはそんなクルディスタン自治区の主都で、数千年の歴史をもつ古都でもある。街の中心にあるシタデル(城塞)から市街を一望すると、想像とは違うイラクの光景が広がっていた。広場には噴水が上がり、夕方になると多くの地元民で広場はいっぱいになる。市場を歩けば、人懐こい人たちが次々と話しかけてくる。シーシャをくゆらせ、若者が集い、家族連れが憩う。そこにあるのは、テロでも略奪でも、まして戦争でもなく、平穏な日常だった。少なくとも、旅行者の自分にはそう見えた。

実際に訪れるまで、イラクには暗いイメージしか持っていなかった。そういう面ももちろんあるし、その方が多いのは間違いない。でもそれがすべてではないことを、この街は教えてくれた気がする。もっとこういうものを見てみたい。自分が勝手に抱いているイメージを覆してくれるもの。風景でも、人でも、モノでもいい。エルビルは、その後の旅の方向性を決めてくれた街だった。

ただ、エルビルの平穏はかりそめにすぎないのかもしれない。首都のバグダッドでは毎週のようにテロが起きている。エルビルの西方80kmにあるモスルは、イラクにおけるISの中心地だ。自分がクルディスタン自治区を訪れた3週間後、イラク軍による”モスル奪還作戦”が始まった。そしてそれは今、最終局面を迎えつつあり、モスルの難民は、クルディスタン自治区にも押し寄せてきている。

それでもまたいつか、訪れてみたい。そう思う。

 

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国境を越えるということ。

国境を越えるたび、言語が変わった。宗教が変わった。服飾が変わった。においが変わった。丸きり変わることもあれば、あまり変わらないこともあったけれど、そこにはある程度の連続性があって、たいていの場合、少しずつ少しずつ文化が移り変わっていった。
そういう文化の”色合い”を感じたくて、陸路にこだわった。点から点に飛ぶのではなくて、線でたどりたかった。

空港からはじまる旅とは、違うものがある。そう信じている。

 

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夕日は旅情をそそる。

この一年でいろんな夕日を見てきた。

マリ・ニジェール川にしずむ夕日。トルクメニスタン・荒野の地平線にしずむ夕日。セネガル・大西洋にしずむ夕日。インド・ガンジス河にしずむ夕日。タイ・水上マーケットにしずむ夕日…

場所が違えば、夕日の色も違うし、空のかすみ方も違う。
でも夕日を見るといつも感じた、あの何とも言えない切なさ。
あの溶けていきそうな気だるい空気と、一日の終わりとともに、夕日は旅愁を誘う。

明日という日は来るけれど、今日という日は二度と来ない。

 

帰国して4ヶ月が経ち、楽しかったことも、嬉しかったことも、苦しかったことも、辛かったことも、すべてが"いい"思い出に変わりつつある。
そしてその思い出がふと浮かんでくるとき、そこには夕日をながめたときと同じ、切なさが滲んでいる。

あの日の、あの自分は二度と戻って来ない。

 

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さて、次はどこへいこう

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